倉庫生活 7th day

昨夜、袖くんがインターンの課題について話していた。ある商品を題材にして、どのようにブランドを付加して売るかを考える、という課題である。その商品は、薄っぺらでテカテカの安っぽい財布であった。それを¥28,000で売るためにはどうしたらよいか、考えるのである。まるで禅問答のような無理難題だ。しかし、袖くんは朗々と語った。
「この安っぽい財布を3万弱で売るには、圧倒的ブランドストーリーを付加するほかない。ブランドストーリーに共感してくれさえすれば、たとえ見た目がただのテカテカ財布でも、買ってくれる人は出てくるはずである。考えたストーリーはこうである。この財布は、環境生物学者と物づくりの職人が立ち上げた〇〇というブランドの商品で、自然界を生き抜くカブトムシに霊感を得て作られている。日々淘汰が繰り返される自然界では、無駄なものはどんどんそぎ落とされていく。この財布も、極限まで無駄をそぎ落としており……」

その話を聞いて、僕は「批判的思考と肯定的思考」という概念を思いついた。テカテカ財布を3万で売らせるという課題を聞いたとき、僕はどう考えてもそれは無理だろと考えた。袖くんもそう思ったことだろう。しかし、そこからのプロセスが違う。僕はその課題が無理な理由を探し続け、こういうわけで無理だと結論づける。これは批判的思考である。しかし、袖くんはその財布を細かく観察し、財布の中のあらゆる特徴点を洗い出し、自前のブランドストーリーでそれら特徴の”根拠”をまるで伏線回収のように説明していく。これは、肯定的思考である。なぜなら、そのとき目の前にあるものを丸ごと肯定しようとしなければ、こういった思考は生まれてこないからである。芸術を志す僕と、経済学を専攻する彼との違いなのかも知れないが、こういった考え方も大事だなぁと思い感銘を受けた。批判することで生まれるもの、肯定することで生まれるもの、いずれもよく考えなければならない。

翌朝、起きるとやはり朝ではなく昼だった。寝たのが4時半だったので仕方ない。今日は土曜なので授業はなく、ずっと作曲をして過ごした。future bassを作る練習をしていて、めっちゃfuture baseっぽい曲とあんまりfuture baseっぽくない曲ができた。夕方からは、江坂さんと石川くんと一緒にとんかつ屋に行くことになっている。東山人間舎は、入居特典として行ったことのない飯屋に江坂さんの奢りで一度連れて行ってもらえるのだ。外はものすごい雨だったが、江坂さんの車でとんかつ屋へ。分厚いかつに味噌だれが良く合った。

とんかつを食う前、江坂さんの希望で近所のスーパー(先日行ったスーパーと同じ、八百鮮という)に行ったら、マグロの頭が売られていた。切り売りではない、丸ごと1頭分である。カマの部分も1対ついている。値段は、なんと600円ちょい。信じがたい価格である。江坂さんが買いたいと言い出して、僕らは何言ってんだこの人と思いながら、マグロ頭の解体方法を調べた。

トランクに積まれたまぐろ
江坂とまぐろ
627円

そこから地獄が始まった。結論から言うと、全部解体するのに4時間以上かかった。まず全体の皮を削ぎ、目玉をくりぬいて、頬肉を切り出す。脳天という頭の肉を切り出し、あごの肉や骨に残った肉をねぎ取る。江坂さんは果敢にもフルーツナイフでこの怪魚と戦い、見事善戦を展開した。石川くんはマグロの皮を次から次へと茹で、大量の皮ポン酢を錬成し続けた。僕はカメラを手に現場を奔走すると同時に、脳天でミ・キュイを仕込んだ。

ゾーンに入ってしまった者たち
まぐろのヒレ
まぐろの目
まぐろの舌(ち〇ちんではない)

かくして各々満身創痍の様相を呈し、石川くんはソファで眠りに落ち江坂さんは無言の修羅と化した。僕は酒を買いにコンビニへ向かった。やはり、料理というものはかくも時間を消費する。なぜなら、それは遊戯性と好奇心の極致であり、文化的化学実験の場に他ならないからだ。まあ要するに楽しいからである。

こうしてできあがったネギトロを醤油で食べたが、美味だった。クソでかい魚の頭を蹂躙してできあがった代物だとは思えないほど、見知った味がした。その日、家には袖くんの友人が2人来ていたので、彼女らも交えてまぐろ祭りが始まった。僕の仕込んだまぐろのミ・キュイも、なかなかのできだった。ミ・キュイとは、魚に50度程度のごく低温で火を通して半生に仕上げる料理だ。

ところで、これまで僕は、一般的な大学生が友達の家に行ったときに何をして長時間を過ごすのか、ずっと謎だった。僕が友人と遊ぶ際は、酒を飲みながら延々と議論を交わし、最終的には3秒ごとに下ネタを吐く狂ったペッパー君のような状態になるまでお互いを追い込むのが通例だが、こういう遊び方が人口に膾炙するものとはさすがに思わないのである。そこへきて、袖くんとその2人の友人の遊び方は僕に衝撃を与えた。ありきたりなゲームをし、冗談を言い、笑い合う。それだけで何時間もの時間が過ぎていく。こういう遊び方がこの世に存在するらしいことは知っていたが、それを目の前にしたとき、僕はやはり彼の内に存在する「肯定的思考」の尊さと力強さに思いを馳せざるをえなかった。

さて、最終的にテーブルの上にはどでかいまぐろの頭骨が残った。まだ肉がついているのでオーブンで焼くことになったが、大量の血と謎の脂身にまみれた頭の肉を見て僕の直感は「これ食えないだろ???」と慎ましやかに警告していた。オーブンで焼き始めるやいなや、大量の油がしたたり落ちて池ができ、それはやがて海と化した。青魚の油の臭いが充満し、オーブンの中の景色はどこか見覚えのあるものになったが、それは確かバットマンの映画で見たゴッサムシティの夜景であった。

ゴッサムシティと化したオーブン内

90分たっぷり焼いた頭骨には、一部普通に食えるおいしい部分も存在していた。一方、明らかに食えない泥みたいな部分やぶにぶにした白い脂の塊なども散在しており、この世で最も鬱屈した見た目の宝箱といった趣である。

こうして長い夜は過ぎ……てはいない。最も大変なのは後片付けである。あまりに大変だったので、もう文章は省く。省かせてほしい。というか、このブログ馬鹿みたいに長いな。もっと簡単な文章を書かせてくれよ。朝起きて飯食って寝た、みたいな…………。

なんやかんやあって、江坂さんとスマブラしてたら5時になったので寝た。今日の戦犯は江坂さんであり、ヒーローインタビューも江坂さんだったことだろう。何にせよ、この江坂という男は恐ろしい。彼の少年的無垢さはもはや暴力的な域に達している。感服である。

僕の目下の課題は、生活習慣を立て直し、作曲や勉強といった本分に重点を置いた生活を構築することだ。この引っ越し生活で、やるべきこととやりたいこととがグチャグチャになることだけはあってはならない。先日の反省と合わせて、後日につなぐ。

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