昨日が倉庫生活最後の日だった。なぜ昨日の日記を今書いているのかというと、この日記を最後まで読めばわかるように、昨日は大変夜更かししてしまい日記を書くどころではなかったからである。最後の日まで締まりが悪いが、まあこれも僕らしいので良しとしたい。
昨日仕込んだ甘酒が、うまい具合にできていた。粥の塊を食っているみたいな食感だが、味はやはりうまい。自家製の甘酒は、フルーティさと吟醸香がある。
また、もやしの方も調理せねばならない。この自家製もやし、日の当たる台所に1日置いておいたら、みるみるうちに豆部分が緑に変わって本葉が出てきた。面白い。生きている証拠である。一緒に作っていたレッドキドニー(赤インゲン)のもやしと合わせてサッと茹で、醤油とごま油で和えて食べた。豆々しくて食べ応えがある。
昼過ぎ、僕らは「東山人間舎の歌」の収録をした。ちなみに”僕ら”とは、音響係の僕とメインヴォーカルのそで君、そしてコーラス兼ポップガード持ちの江坂さんである。
録音機材は僕の私物だ。引っ越すとき、この収録のためだけに家から持ってきたのである。これまでに、サクライ君の口笛ソロとkamijo君のギターソロは収録済なので、今日はそで君の歌を録る。歌の収録というものは、実は大方の皆様方が思っている以上に難しい。最初は余裕そうだったそで君だが、なかなか満足のいくテイクが録れず、メロディラインを何度も確認した。江坂さんが、「こんなに緊張してるそで君を見たのは初めてだ」と笑っていた。何度も江坂さんがそで君にメロディラインを教えていたので、江坂さんは意外と音感があるんだなと思った。
かなり頑張って、なんとか満足のいくテイクが取れた。映画の撮影が終わったみたいな達成感に包まれつつ、今度は江坂さんのハモリパートを録る。こちらは1発でいきなりOKテイクが出た。というのも、ハモリパートは5秒くらいしかないからである。
その間、kamijo君はずっと豪華な夕飯を拵えていた。今夜は来客があるらしい。僕はというと、録音したヴォーカルのデータを手に自室に籠り、なるはやで歌のmixをした。読者の方々の多くは、歌を作るときに作り手がどういう作業をしているのか知らないだろう。この機会にお教えしてみたい。まず、ヴォーカルの音程を補正ソフトで調整し、イイ感じに整える。そのデータをカラオケ音源の上に乗せ、今度はリズムの補正をする。今は便利な時代で、ヴォーカルの音程やリズムが多少ズレていても、違和感なく直すことができてしまう。その後、ヴォーカルに奥行きと芯を持たせるために、エフェクトをかけてさらに調整し、音量や左右の振り分けを吟味し、余分なノイズはカットしたり、全体の音圧が等しくなるよう調整、そして伴奏にEQを切って声が通るように……とやっているともう夜明けである。いや夜明けはウソだが、目立たない割に結構大変な作業なのだ。
こうして、「東山人間舎の歌」のベータ版が完成した。なかなかいい出来なのではないだろうか。そで君の歌も江坂さんのハモリも、かなりいい感じに入っている。江坂さんにも大層気に入ってもらえたようで、この後ずっと1人で口ずさんでいた。
夜、来客の人たちとkamijo君の作った夕飯を食べた。非常に美味かった。ちなみに、夕飯の間中ずっとBGMとして「東山人間舎の歌」が流れていた。多分明日には足りない録音を済ませて、ちゃんと完成させられると思う。
夜、来客や住人たちと色々な話をしていたら、白熱して深夜の3時を過ぎていた。こういうわけで日記を書けずに寝てしまったのである。最後の日まで、ここでの生活は濃かった。
……などと言っているが、実はもう少しだけ継続で住むことになった。住み心地が思ったより良かったからだ。この日記も、僕が本当に実家に戻る5/16その日まで、番外編として継続しようと思う。とはいえ、これで僕の1か月の倉庫生活はひとまず大きな区切りを迎えたといっていい。ここまでの日々を総括し、東山人間舎、および八雲の窓のない2畳間で暮らしを営んできた感想を、まとめレポートとして著しておきたい。