倉庫生活 28th day

今日、自転車で実家まで帰った。大学から実家までは20km以上の距離があるのだが、なぜ電車を使わないかといえば、もちろん金がないからである。大変いい運動になった。帰る途中ずっと音楽を聴いていたのだが、ランダム再生で流れてきた細野晴臣の「住所不定無職低収入」を聞いて、よく考えたらこれは僕のことではないか、と気づいて笑った。実家と人間舎を往復し、仕事もせずに2畳間に籠っては財布の中身を気遣っている。この調子で頑張れば、僕もすっかり俗世離れしたイケメンオヤジになれるかも知れない。試しに明日は海でもぶらついてみようか。むろん、今夜の夢見が良かったらの話だが。

今日は母の誕生日なので、実家でバーベキューをすることになっている。道中で母に祝いの酒を買ったら、ついに金がなくなった。「キャプテン・クックのように 俺は今……」などと口ずさみながら山を越え、田んぼを横切って家に帰ると、自転車で帰ってきた僕を見て父がたまげていた。

さて、実家には柴犬が2頭おり、僕は愛玩動物を愛玩するのが好きなので、いつもほっぺたを伸ばしたり腹太鼓を叩いたりして存分に愛玩している。最近は犬ものまねシリーズにハマっている。例えば、我が家の犬はイカのものまねと使徒のものまねが得意だ。

イカのものまね
使徒のものまね

なお、赤毛の方の犬でイカのものまねをやろうとすると噛まれるので、注意が必要である。

バーベキューは大変美味かった。父が買ってきてくれたクラフトビールは、とてもフルーティですっきりして飲みやすく、かなり良かった。

南信州ビール ゴールデンエール

また、僕が庭に植えていたにんにくを掘り出して焼いてみた。にんにくは、ふつう半月みたいな歪な形をしているものとばかり思っていたが、土の中でしばらく育てると綺麗な球形になるというのは初めて知った。ミニたまねぎのようで見た目にも可愛いが、味はにんにくそのもので面白い。

ミニにんにく

母の誕生ケーキを食べた後、疲れからか睡魔に襲われたので仮眠を取った。今日はこの後、再び帰路を走らねばならないのである。

そういうわけで、深夜0時過ぎに再び家を発った。音楽を聴きながら走ろうと思ったのだが、知多市と東海市の市境に差し掛かったとき何となくイヤホンを取ったら、暗い田園にサラウンドで響き渡る河鹿の声と、稲の香りのする湿った空気、田んぼの果てに光る住宅街の灯、その向こうで一帯を見下ろす製鉄所の影、夏の香り、そういったものが俄かに夜闇の中に感じられ、あたりの空気が急に湿気を増したように感じられた。イヤホンを取って湿気が増した、というのが面白く、僕としたことが抜かったな、と思い、以後の道中はイヤホンをせずに音楽を流しながら走った。

何度かGoogleマップに騙されながらも、僕はすいすいと自転車を漕いでいった。天白川沿いを走り、開けた住宅街を抜け、大通りを渡った。車も人もほとんどない。途中、通り抜けた公園で若い男がボクシングのミット打ちをしていて、なんとなく良い気分になった。途中、チェリオの自販機を見かけた僕は目を輝かせ、自転車を止めた。夏の匂いのする夜、煌々と輝くチェリオの自販機は僕に郷愁をもたらす。夜釣りの帰り、バカみたいに疲れた体と重いクーラーボックスを自転車に乗せて走りながら、無人の駅でチェリオのジュースを買って飲むのが好きである。安くて駄菓子みたいな味がするのが実にいい。

チェリオ

こうして道のりを進めるうちに、田んぼから住宅街、大通り、また住宅街、ビル街、高級住宅街へと街の姿が変わっていく。名大に近づくにつれ、寺社の数が急激に増える。さて、あと2,3kmで到着だ、というところでスマホの充電が切れた。これでは地図が見られないではないか。とはいえあと少しの道のり、勘で進むよりほかに道はない。迷いながら進むうち、いくつか見知った建物を発見し、ついには喫茶マウンテンの看板を発見して歓喜した。南山大学に到着し、人間舎への辿り着き方を模索していたら、突然目の前に人間舎が現れて、どこを進んだのか判然としないまま家に着いてしまった。

こうして自転車を走らせるのは、やはり楽しいものだ。今日は往復で45kmくらいの道のりを走り、多分人生で2番目に長い距離を走った日になった(ちなみに、1番は京都に行った時の120kmである。そのときもこの自転車で行ったので、ろくに整備もしないのによく持っているものだと思う)。家についた今は不思議と疲れていないが、これは明日どっと来るやつかも知れない。

人間舎について、シャワーを軽く浴びた。数日前から育てているウラド豆もやしを見てみると、ここ数日でかなり成長して、体積が何倍にも増えている。もう食べごろなので、明日には調理する。

最後に、僕が昔作った「じてんしゃ」という曲を紹介して今日の締めとしよう。自転車で大学に行ったり、京都に行ったりすると、この世界が地続きで結ばれていることが実感できて、僕らは意外と自由なのだなあという気がするのである。

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